3ヶ月だけください

毎回1つのお題に4人のブロガーが答えていく期間限定ブログ

インターネット人格で為される仕事や恋について

ブロガー4人で3ヶ月間だけ考える企画。阿弥陀くじで初回のお題決定者に選出されたので「ネットのリアルの境界線」をお挙げることにしました。ちょうど「転職活動でブログの話を出すのはアリ?」や「ネット恋愛はアリ?」といった話がマイブームになっていたからです。

僕自身はインターネット上の活動からリアルの仕事や会合にも繋げていきたいという意向が比較的強い方だったとは思います。はてなブログを開設した当初から、ライティングのお仕事を直接的に請けてきましたし、今回の企画に参加されている はせおやさい( id:hase0831 )さんとのトークイベントもありました。はてなブックマークOFF会の実行委員になったり、電子書籍の共著者になったりと、インターネットの仮想空間で遊ぶための人格に過ぎなかった「池田仮名」がリアルにも影響をおよぼすことが日常化していった経緯があります。

その一方で、会社や恋人にはインターネット上の活動を隠し通してきましたし、インターネット上の活動を理由に内定をもらえたり、恋愛に発展した事もありません。ブロガーイベントで紹介頂いた某社の書類選考すら通過できませんでしたし、「名義上のカレカノ」などと突飛なことを言い出して「事実上」に繋がったのかもしれない諸々も遠ざかっていきました。全く残念な話ですが。

「ブログは人生に殆んど影響しない(=つまり5%ぐらいは影響する)」と昔から書いてきたのですが、その後の実感からもズレていません。「僕(=池田仮名)」と「私(=中の人)」はどこまでいっても別モノだけど、互いに影響することも少しだけあるという感じです。ある力学系がそこに向かって時間発展をする集合のことを「アトラクタ」と言うのですが、ある時間範囲におけるリミットサイクルは「ほぼ」決定論的です。小さな仕事を請けたり、隔月で会うぐらいの友人になることはリミットサイクルに組み込まれているが、それ以上は難しい。これは「そうありたい」というコントロールと「そうであった」という事実の相補完関係にあります。

「インターネットだからダメ」というのも正確には違っていて、転職エージェントとのコミュニケーションや企業からのスカウトにはインターネットが利用されていますし、インターネット上で運営されている男女のマッチングサービスもあります。ただ、それらを利用するにしても「池田仮名」というインターネット上の人格がひも付いていかないんですよね。転職活動で「池田仮名」の名義で行なってきた Github へのコミットや商業ライティングなどのポートフォリオを提示できなくてもどかしい思いをしました。

これは僕自身が「インターネットだから本音を書いている」という事ではなくて、むしろ大袈裟に悲観的になったり、創作実話を書いたり、道化として戯れていることのが多いので、それが「本心」なんだと思われると困るし、ガバナンス的にもプラスに感じる人のが少ないだろうという自制をしてきたからでもあります。現実の仕事のトラブルや痴話喧嘩の内容を書かれても困りますし、仕事を辞める決意をしたり、恋人と別れてからも「池田仮名としてリアルな仕事や恋愛をしよう」とは思えませんでした。

インターネット上の人格をリアルで出さなかったり、リアルの人格をインターネット上に出さないのは破滅的に遊べる場所がなくなるのが悲しいという側面もありますが、そもそもインターネット人格のままで為される仕事や恋愛についての疑義や居心地の悪さがあるからなのかもしれません。もちろん「本当の自分」なんてものはいませんし、気持ち悪い事を含めて僕自身ではあるのですが、それらが実生活の評価範囲になりつつ、露悪的な部分ばかりが目立つようになるのは正直いってシンドいです。

インターネット上の人格で解除した「実績」そのものは、あまりリアルに影響してほしくないのですが、それでも素振りを続けることによって蓄積した「スキル」が、ある程度までは実戦に役立つ事もあるとは思います。何も自省しないよりはマシになっていくこともあるでしょうし、仕事内容への好き嫌いや得意不得意についても、事前知識が全くない状態よりかは幾分かの確証が持てます。

また、インターネットが「きっかけになる」のはありえると思います。長い付き合いの友人とは趣味関係のオフ会がきっかけですし、紹介された店に行ったり、ある分野を勉強しようと思うのはインターネット上の出来事がきっかけになることのが多いぐらいです。ただ、リアルで関わるごとに幻想は消えていきますし、何かの間違いで「ファン」に近い感情を表明されると、その後に幻滅される予感しかありません。

つらつらと書いてきましたが、僕にとっての「ネットとリアルの境界線」は5%ぐらいリアル側に踏み込んだ場所にあって、一定の範囲まではリアルに影響があったり、「きっかけ」にはなるという認識です。しかし、他の人はもっと違う場所に「ネットのリアルの境界線」があるのでしょうし、正解はありません。その前提を互いに認識しつつ、仮にインターネット上の人格をきっかけとした転職や恋愛が成立するのだとしても、インターネット上の人格には深入りせずに「中の人」として行うリアルの対話を重視したいと思っています。SNSのアカウントなんてブロックするぐらいでちょうどよいのです。

もちろん、この「リアルの対話」も、その人に向けて作られた人格のひとつに過ぎないのだけど、特別な「ええ格好しい」が少しも出てこない信頼関係や恋愛感情って少なくとも僕自身からはないと思うんですよね。

著者プロフィール

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IT系企業に勤務の傍ら個人ブログ「太陽がまぶしかったから」を運営。情報システムの発展によって変化していく人の心や共同体のありかたに興味。恋も仕事もFA宣言中。
共著書に「レールの外ってこんな景色: 若手ブロガーから見える新しい生き方