3ヶ月だけください

毎回1つのお題に4人のブロガーが答えていく期間限定ブログ

なにを書いたかよりも、なにを書かなかったかという余白にこそ本質は宿るけれど

4月から始まった『3ヶ月だけください』という共同ブログは名前の通りに満期終了となります。早いような大変だったようなという感じです。ここに書く時には普段よりも過剰に「自分らしい自分」を出そうとしていて、逆説的に「よそ行き」になっていたようにも思います。今回のお題は「3くだで書き足りなかったこと」ですね。

これまでのお題を振り返ってみると、揺らぎはじめた「インターネットとリアルの境界線」のなかで出会って、自分ひとりに最適化した考え方しかできないのは寂しいから「 個人プレイの人が、コラボレーションの人になるとき」を意識して、ふたり分の思いやりを「人生に恋愛が必要な理由」にしようと決心し、だからこそ雄弁な言葉ではなく無言で見つめ合って「書くことをやめる時」を迎えようという流れでした。

ギリギリになってからお題が決まっていたし、当初から意識していたわけでもないのですが、ひとつの恋物語としても読めるように展開していたのですね。内省的な文章を書くときには不特定多数の誰かに向けたラブレターをしたためているような気分になることもあるのですが、その観点からは必要十分であって「3くだで書き足りなかったこと」はあまりないのかもしれません。

とはいえ、現実世界においては言葉がなくなったままでは壊れてしまうので、もっと身も蓋もない会話や些細なことで喧嘩をしたりする段階に移っていくのが実際的な話です。それでも、むかしから「少年漫画は告白まで」という自主規制的なテーゼに縛られて、あんまり所帯染みたことが書けないんですよね。Facebookに同期が子供の写真をアップしているなかでも、未だに新社会人ぐらいの時に作られたインターネット人格に引きずられていることを実感します。貴様、いつまでイノセンスな青年でいるつもりだ問題です。

その意味では、いくら悩んだり、考えたふりをしていても、目の前の現実を疎外しながら安全に痛いアトラクションに浸るための文章を書いているという醒めた視点もあって、その壁は完全に超えられなかったような気がします。社会人になると「政治と宗教と野球の話をするな」と言われますが、これは当事者にとって大切なものでありながらも、個々人のデフォルト値が著しく異なる可能性が高いからです。僕自身はノンポリ、無神論者、スポーツ嫌いなのでいくらでもテキトーに語れますが、相手がそうとは限りません。恋愛であれ、仕事であれ、人生論であれ、公開の場で軽く書けるのはその程度の範囲にあることばかりになりがちです。

つまり、「なにを書いたかよりも、なにを書かなかったかという余白にこそ本質が宿る」という一般論なのですが、そのことを意識すれば意識するほど、さらにジャミングをかけて偽の本質に当たらせたくなりますし、その自主規制のレベル感も当人の思い込みである可能性が高いわけです。そういう観点からすると奇をてらわないが故にギリギリギリセーフを狙うのが難しい文章に対して、デフォルト値が異なる境界線の手触りを4人で確認しながら踏み込んでいくような領域が僕にとっての「3くだで書き足りなかったこと」なのかもしれません。今回はよくもわるくも編集会議とか赤入れ工程とかが発生しなかったので、今後のコラボレーションでは俗世的であるがゆえにある意味では危険な題材を馴らしながら提出できたらいいなぁと思いました。

個々人が素朴に抱いてしまう「政治的に正しくないこと」を含んだ感情について、それを表に出すべきでないという考え方も、黙らせることで内心の偏見を正す機会や、気付いてなかっただけのことを直す機会を損失させるべきでないという考え方も正しいとは思うのですが、それらのいっさいがっさいを互いの内心に留めていたら生きづらいです。どうしようもなくなってから「実はアレがイヤだった」という後だしは、するのもされるのも悲しさしかありません。目の前の現実と向き合うための文章は書き足りないぐらいでちょうどよいのですが、かといって安全に痛いだけのぬるま湯の中で自分すら熱い熱いと騙しながらの熱湯コマーシャルに浸らないようしたいです。

そんなわけで、この共同ブログでは筆を置かせていただきます。デザインを担当したり、プランニングを丸投げしたり、文章に見出しをいれなかったりと普段とは異なるスタイルで楽しませてもらいました。またお会いしましょう。ありがとうございました。

著者プロフィール

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「3くだ」ではデザイン担当。会社員の傍ら、個人ブログ「太陽がまぶしかったから」を運営したり、企業メディアで執筆したり。通俗小説とボンクラ映画とロキノンに生かされている。
共著書に「レールの外ってこんな景色: 若手ブロガーから見える新しい生き方